リレー小説

「リレー小説 ver.2」

文体、世界観、構成は各人の自由で小説を繋いでください。

大きなルールとしては、
一、一週間書き込みが無ければ終了。
二、一つの作品(流れ)は5つの投稿で完結。
三、同一人物の連続投稿は禁止。

また、ゲーム性を出すための制約や権利として、
一、前任者が任意で掲示したワードを後任者は小説の中に入れなければいけない。
例)ワード「高麗人参」
幸子は拓郎が磨り潰した高麗人参を調合して解毒薬を作った。
二、一作品のオチ、つまり5つ目の投稿者は次の小説のテーマや世界観や登場人物を設定できる。
例)「魔法と剣が出てくる西洋風ファンタジー」
  「筆記用具で恋愛モノ」
  「カッコいい麻生太郎を主人公にしてバトルモノ」

などを駆使しつつ、愉しんで頂ければ幸いです。

では、最初のワードです。

「ギター」

(土井)




ツクツクボウシの鳴き声で俺は目を覚ました。寝惚けた頭で俺の今の状況を考える。場所は教室。時間は放課後。外からは、ツクツクボウシの鳴き声とそれぞれのクラブの掛け声が聞こえる。どうやら、いつの間にか眠っていて、そのまま誰にも起こされずにいたらしい。

夏休みが終わっても、まさに平凡を体現したような男である俺は夏休み気分から抜け出せず、こうした自堕落な生活を送っている。それが良いのか悪いのかは分からないが、少し物足りなく思っているのも事実だ。

「さぁて、帰るか」

誰に言うわけでもないが、そう一人で呟き、中身がほとんど無く、軽い、ボストンバックを肩に掛け、教室を出る。
放課後の廊下は静まりかえっていて、時折誰かの笑い声が聞こえたり、足音が聞こえたりする。
こういう雰囲気が個人的には凄く気に入っていて、時折、俺は立ち止まって、そのまま廊下に佇んでいる。
今日も俺は階段の踊り場で立ち止まる。壁に身体を預けて、無意味に溜め息を吐いてみたりする。
すると、どこからともなくギターの音が聞こえてきた。放課後に、ギター。なんか良いと思う。
俺は単なる気まぐれで、その音をたどってみようと思った。退屈な生活にはこういった意味のない事をさも意味があるようにすることが一番の特効薬となる。音をたどって、階段を上り、廊下を通り、あちこち彷徨ったあげく、とうとう一つの教室にたどり着いた。中からは心地の良いギターの音が流れてくる。
ドアが開きっぱなしで、俺はその隙間から、そっと中を覗く。そこには一人の女の子がいた。一人熱心にギターをかき鳴らしている。
なんで一人なんだろう。バンド仲間と練習しないのかな。そう、心の中で思っていると、演奏が終わり、彼女がふと顔を上げた。そして、俺とばっちり目があった。

(miyama)

次回ワード「画鋲」




 そう、思うことはたくさんあったんだ。だが、俺はその一つも言葉に出すことはない。蛇に睨め付けられた蛙のように、身動ぎ一つ俺は取れず、
「・・・・・・」
 俺は口を噤んだ。
「・・・・・・じゃないわよっ。何か喋んなさいよー、キモいよーキミ・・・・・・フフ、キモ!」
 赤い夕日に融け合った陽炎(ようえん)の少女は無邪気に笑う。夕焼色に真っ赤に染めた髪をした女の子。
 多分、とどのつまり俺はずっと彼女に魅入られていたんだ。つまらないモノクロの学校の風景の中で、日常へ反旗を翻したかの如くに紅い彼女の姿と、彼女の瞳に。

 それからの放課後、彼女がギターを練習する教室に俺は通い詰めた。理由などわからない。日々に退屈した男が妖しい魅力を持った女へ惹かれるなど、それが理由になるのかすらわからない。
 でもその場に彼女はいつも同じようにいて、一人で熱心に練習をする。華奢な指で危なっかしくコードを押さえ、凡庸なメロスピの曲調の曲を何度も何度も繰り返す。
 最初はただ呆然と見つめる俺を彼女は気にも留めなかったが、その内に一言二言は言葉を交わす程度の関係になった。でもそれも無味乾燥としたもので、彼女は俺の名前すら聞かず、あくまで俺は彼女にとっては関心の外だった。
 だからその過程で知った事と言えば彼女は俺の一つ上の上級生である事と、でも一年ダブっているので俺とは二つ歳が離れている事ぐらいで、やはり俺も彼女の名前を知らないのだ。

 間違いなく変わり者に分類される赤髪の少女が、学校という小さな社会では爪弾きされ、いらぬ噂を立てられる事も想像に容易だ。
親切な俺の友人は、ご親切にもその噂を仔細にわたってご説明してくれた。
 噂では、彼女はとあるへヴィメタバンドのギタリストに狂信的なまでに入れ込んでいたが、そのギタリストが一年前、27歳の時に女性ファンと一緒に焼身自殺して以降は、ずっとあの調子なのだと言う。
 老朽化し使われる事のなくなった教室で亡霊のように、死んだギタリストの曲を弾き続ける。だから、そんな気色の悪い幽霊女とはさっさと縁を切った方がお前のためだ。
 そう言って話を締め括った友人は、おそらく正常な感性の持ち主だ。もしその噂が本当なら彼女は異常だし、そんなのに毎日会いに行くような輩はもっと異常だろう。
 とりあえず、俺はその自称正常の友人と縁を切る事にした。


 放課後、彼女がエレキギターを弾くいつもの教室。彼女はいつも教室の一番後ろ、窓側の席で外を眺めながら練習していた。そして何をするでもない俺も窓側の一番前の机に腰掛け、これまた同じように外を望める位置に居座っている。
 互いに顔を突き合せない俺たちの会話は、突如彼女から思い立ったかのように振られてくる話で成り立つ。だからその日、彼女が言ったことも予想出来たはずもない突然のことだった。昨夜のドラマの内容を話すかのような、話を繋ぐ話題の一つであるかのような、そんな他愛もない調子でそれは述べられる。
「誰もいない教室、そこでギターを弾く幽霊女・・・・・・そんな噂、キミも耳にしてるんじゃない? でもさ、やんなっちゃうよね、それがホントの話なんだもん。彼の好みに合わせて髪を赤く染めて、彼の興味を惹くために貰った安ギターを猛練習して・・・・・・柄にもなく健気に努めたんだけどねー・・・・・・はぁ。それだけして全て捧げた彼が最期に選んだのが黒髪のご令嬢なんだってんだから、ホントやんなっちゃう・・・・・・・・・・・・でもね、フフ、哀れがられるより笑われた方がマシね、こんなくっだらないグルーピーの末路なんてさ」
 彼女が自らの哀しい物語を何とはなしに口に出来たのも、よくよく考えれば納得できる。普通の女の子が恋をして、普通に絶望した、ごくありふれた失恋の話であるからだ。
 どんな顔でその話を切り出したのかと思い、ふと教室の後方へと目を遣る。やはり、気丈な彼女は泪を流してはいない。だが彼女は出会ったときと同じ、充血した赤い目をした彼女でそれを話し、それを聞く俺もまた同じく、不甲斐ない俺のままで何も言ってはやれない。
 素直に泣けばいいのに、強がりな彼女は泣けずに独りぼっちになった。彼の思い出と彼のギターを捨て去れずにこれまでも、そしてこれからも多分彼女は朱に染めるのだろうか。その儚い身躯と瞳を。

「グルーピーって・・・・・・」
 日本でもバンドブーム時代なら、よく聞いた言葉だ。熱狂的な女性ファンが特定のミュージシャンとより親密な関係になれることを願い、そして―――
「・・・・・・なーにを急に押し黙って想像してんのよ、このむっつりスケベっ! ・・・・・・でもま、キミのご想像通りの事は大概やってきたんじゃないかしら、その幽霊さんも。そうね、たとえば・・・・・・こんな風に、ね!」
 その直後、俺は机から引き摺り下ろされ、彼女に床に押し付けられる格好となった。その衝撃の余波によるものか、この閉じられた空間のどこかで大量の画鋲が落ちたような音が聞こえた。でもそれ以外の音はせず、心地よいギターの音色も今は響かない。
 そして泪を流す彼女を間近に、蛇に睨め付けられた蛙のように、俺は口を噤んだ。

(アップ・シャオム)

次回ワード「獣」




「はぁ〜〜・・・・・・」
俺は自分の部屋で、大きなため息をつきながら今日のことを振り返り、そして・・・
「はぁ〜〜〜〜・・・・・・」
本日42回目のとびきり大きなため息をついていた。
「・・・俺なんであんな事言ったんだろ・・・・・・」



泪を流す彼女を間近に、蛇に睨めつけられた蛙のように、俺は口を噤んだ。
俺はこれからおきるであろうことに一抹の期待と不安、いや恐怖のようなものを感じていた。
捕らえた獲物を逃がさぬように睨みつける眼孔は、まさに『獣』だった。
「キミももうわかってるんでしょ?その幽霊さんが!私が!どんな女なのか!!」
ぽろぽろと泪を流し、彼女は俺のシャツに手をかけようとしていた。
だめだ・・・こんなの・・・・・・こんなのだめだ・・・!
俺は心のコエで必死に彼女を説得しようとするが、そんなものがきこえるはずもない。その思いを声にだそうとするが、俺の中の一抹の期待がそうさせているのか、彼女の眼孔がそうさせているのか口が開かない。
「まだわからないなら教えてあげる・・・・・・私が・・・どんな女なのか・・・」
彼女の顔を見た。彼女は泪を流していなかった。彼女はナイテイタ

(世界一浅い位置に立つ者 )

次回ワード「黒い髪」




「触るな!!」
俺は思わず、そう叫んでいた。正直怖かったし、重かったのだ。
彼女の手を振り払い、俺はその場から駆けだした。部屋から出る前に一度だけ振り返った。彼女は悲しげに頬笑んでいた。それはとても自虐的な笑みで、声を上げて泣きむせぶよりもより深い悲しみを感じた。
俺はその悲しみから逃げだした。

溜め息も尽き果てて、酸欠になった俺はぼんやりと彼女の音楽を思い出していた。
彼女の演奏はとても心地良かった。ただただ聴き続けていたかった。でも、あんな事を言ってしまった今、もう元には戻れないだろう。

俺は部屋の隅に置いてあるギターを手に取った。彼女の影響で買ったものだ。
いつか一緒に演奏したいと密かに練習していた。でも、もうその夢は叶いそうにない。
俺は無心でギターを掻き鳴らす。彼女の音を思い出しながら。
弦が涙で濡れたって、どれだけ肩が震えたって、俺は弾き続ける。そうして悲しむことが彼女に対する贖罪に思えた。でも、それは自分勝手な感情だとも知ってた。

次の日の放課後、俺はいつもと同じようにあの教室にいた。いつもと違うことは俺がギターを背負っていることと彼女がいないことだけだ。

俺はギターを取りだして、弾き始める。彼女が俺の音に気付いて、戻ってきてくれるように。
戻ってきたら、どうするとかは何にも考えてはない。ただもう一度彼女に会いたかった。
校舎中に響き渡るように激しくギターを掻き鳴らす。彼女が気付くように、ただひたすら。

教室のドアが突然開かれた。そこには黒い髪の少女がいた。少女はさも当然のようにいつも”彼女”が座る場所に腰を下ろす。
俺は演奏をやめて不躾に少女を見る。そこで、俺は気付いた。少女は”彼女”だった。彼女は真っ赤なあの髪を真っ黒に染め戻していた。

ラストワード「君の音」




 思うことはたくさんあった。でも言葉に出すことはない。演奏を再開する。熱心に練習した一曲を弾き終え、そして長い沈黙。
「……へたっぴ」
 余計なお世話だと思う。でも髪は変わっても同じ、いつも通りの彼女の言葉に安堵の心地がした。
「だけど、聴いてて心地良いな。技術はなっちゃいないけど良い音出せてるよ、キミ」
 憧れのギタリストからお褒めの言葉を預かれて光栄だ。それきりまた彼女は黙りこくる。そして深い沈黙。

「昨日は――」
「昨日はゴメンね。私の勝手でキミを困らせちゃった。ホント、ごめん」
 沈黙に耐えかねて発したこちらの言葉を遮って、殊勝な態度で謝られる。俺は彼女の口からそんな言葉が発せられる事を、期待しただろうか。いや違う、俺は――
「……俺、さ……ずっと退屈してた。日常に飽きてたんだ。家はつまらない。ガッコはくだらない。世界は物足りない。でもある日聴こえてきたギターの音は、違ったんだ。どこか嬉しくて、どこか哀しい、魅力に溢れ、俺はその音を奏でるヒトに惹かれた。それで自分よがりな幻を築いて、本物に目を背けた。臆病な俺は、本当の君の姿を拒絶してしまった。でも、そう、それでも、俺は……」
 初めて自分から彼女と顔を付き合わせ、本当の話をする。それは陰気で内気で口下手な男の、最初で最後の告白だ。
「フフ、スタンダールさんが言うにはね。恋は熱病のようなものである。それは意思とは関係なく生まれ、そして滅びる、だってさ。キミも、私も、そう。熱病に浮かされてるの。だからきっと、キミもいずれ気付く。その想いがウソであること。勘違いであること」
「そんなことは――」
「そんなことあるよ!!」
 悲痛なその声が、彼女の本当に違いなかった。俺は何も言い返せない。言い返せなかったのだ。

 窓から遠くを望む。雲は高く、空は赤い。出会ったときのままの夕焼色の静かな世界。彼女は何ともやるせない、諦めのついた顔で――彼女は観念した悪戯っ子のような調子で、あの哀しい幽霊の物語の顛末を話す。
「でもね……髪も黒く染め直して、ギターを捨て、オモイデを捨てた気になって……でもムリ、ダメなの。私がお墨付きをつけるけど、キミはステキなヒトよ。キミはね、顔はイマイチだしギターの腕は拙いし、女の子に気の利いた言葉を掛ける気遣いも出来ない、ダメダメな男の子。だけどステキ、とってもステキな男の子。彼なんかより、ずっと……でも、いや、やっぱり、私は……彼が好きなの。どうしようもないほどバカでくだらなくて、自分に酔って死んでいったあのヒトを、私は愛してるわ。だからアナタは愛せない。アナタを許容することは出来ないの。
 ……うん、確かにこの想いもウソかもしれない。でももし、この想いを拒否してしまったら、私は私をきっと認められなくなるし、信じられなくなる……それから、ううん、このままじゃ、私は私で……いられない。だから――」
 決意の宿った彼女の声に、俺はなんとなく、これから起こる事を予感した。


「ごめんね」
 彼女は穏やかな表情で明確な拒絶の意を示す。これは優しさだ。自分の心に嘘をつけない彼女は、露骨に俺を突き放す事で俺を救おうとしてくれている。彼女の返事は俺を納得させるに十分過ぎた。
「ハハ、フラれちゃったぜ」
「フフ、フっちゃったぜ」

 それからは遊びに興じる子供と同じ。お互い無邪気に笑い合う。それが答え。俺と彼女の関係は名前も知らず、互いの心情だけを残し、終わりを告げるのだ。彼女が席を立ち、扉へ向かう。

「人生の先輩であるお姉さんからの忠告、と言うかおねがいね。キミは私を忘れて、ね」
「まぁ、善処はしますよ、先輩」
 彼女が扉の前に立つ。楽しむように、歌うように、言葉を紡ぐ。
「お別れね。短いお付き合いだった、けど、楽しかった。さよなら、ステキなヒト。今度は未練たらしい幽霊女なんかよりキミにお似合いの、ステキで可愛い女の子を見つけてね。あと戸締りは任せるから、カーテンはきっちり閉めといてね」
「あぁ、わかった」
 これまで通りの淡白なやり取り。でもこれが最後。

「あ」
そして悪びれもなく最後の最後に、俺はうっかり言いそびれるところだった。先程咎められたばかりではないか。
「……なに?」
「黒髪も悪くない」
 一瞬、呆気に取られた表情。何だ、気の利いた言葉と思ったけど何か違ったのだろうか? 重苦しい沈黙が長引くほどに肥大化するこちらの不安を他所に、彼女は年上の女性らしく落ち着き払った態度で――
「フフ、ありがと」
 黒く染まった髪を指で弄んで、笑った。頬を朱に染めた彼女の笑みはとても可愛らしく、死んで詫びろと俺は死んだ野郎に言ってやりたくなった。

「それじゃ。頑張って……生きてね」
「まぁ、善処します。先輩、さようなら」
 夕焼けの教室に映える、満面の笑み。元気良く手を振られる。泣いてなどいないし、彼女はもう泣く事はない。泪は迷いの証。けれど彼女はもう迷わない。それで俺は、こんなにステキな笑顔の彼女を見れただけで満足。そう、コレで良かったんだ。俺は絶対に彼女を裏切らない。その想いが嘘であったとしても、俺は彼女の為に心に刷り込む。俺ももう、迷わない。
 カーテンを閉める。暗闇に包まれた独りっきりの教室は、不安定な心を落ち着かせるのには最適だ。俺はまだ傷も少ない買ったばかりのギターを手に取り、この教室で行われる最後のギター演奏を始めた。我武者羅に、遮二無二に、その音は曲や音楽と呼べる代物であったかは定かでない。コードが滅茶苦茶であろうと、リズムが乱れようと、ノイズにまみれようと、焼き切れんとばかりにピックを弦に叩きつける。言葉では表現できない、やりきれない感情を音に乗せて、無我夢中に、ただひたすらに――

――ジャジャン。
 弾き終える。
――ドシャ。
 それに一呼吸置いて、大きな何かが地面に落ちた音を聞く。それは堅い何かが脆く砕けたような、そんな小気味良い音でもあった。普段ならわからないが、それが彼女の最期の音だったと思うと、不思議と不快感は感じない。それよりなにより、終わりまで熱心に俺の演奏を聞いていてくれていた事が、今となっては気恥ずかしい。

「……あぁ、でもやっぱり、あのおねがいは聞けそうにないなぁ。
 俺は多分永遠に、君の音は忘れられない」

 ――その後。数週間は校内も色めき立った。だが終ぞ、俺に様々な音を教えてくれたあのヒトの名前を聞くことはなかった。人間は関心外のものほど簡単に忘れ去れる、そんな便利な脳味噌をしている。つまり、だから、俺一人が反旗を翻して彼女を憶えていても悪くはないと、最近はそう思うことにしている。ただ、まぁ――
「それはまさしく校庭に咲いた可憐な花。血で赤く染まった少女の髪は、いたく美しかったそうな」
 そんな風な笑い話をする奴らを力いっぱい殴り、例外無くこっぴどい返り討ちに遭ったことは、言うまでもない。

(アップ・シャオム)