便意について本気出して考えてみた4(著:深山)



「おいっ、聞いてるのか?」

ビクッと体が跳ねる。いつの間にか自分の世界に入っていた。

「誰か意見のある人?」

もちろん誰も発言などしない。
ただ、時が過ぎるのを待っているだけ。
どうせ他の班も同じ状況だろう。静かすぎる静寂がみんなを包んでいた。
僕しかいないだろう、この状況を変えられるのは。

「誰もいないの?どうする?」

「僕がやろうか?」

このタイミングだ。あくまで仕方なくやるといった風を装う。もちろん異存はなかった。
そして、頭の中でイメージする。あの子が僕に駆け寄ってありがとうと言う場面を。



 「よし、みんな出来たか?じゃあ、一斑から順に発表していってくれ。」

一斑の女子が立って話し始める。

「えーと、体験って言っても特にありません。だからなにもありません。」

彼女はまだ優しい方だった。
二班などはそんなことぐらい言えないやつが悪いとはっきりと言い切った。
他も似たり寄ったりだった。今まで自分の席でうつむいていた彼女は更に背中を曲げている。

「じゃあ、次五班。」

先生はまだあきらめていないようだった。五班は彼女がいる班。
たぶん彼女が立って自分の今の気持ちについて語るんだろう。
それで少しは周りのいじめも緩和されるだろう。だけど、完全になくなることはない。それも事実だった。

 

次の瞬間立ったのは、彼女ではなかった。立ったのは中村君だった。いつもクラスの
人気者でみんなに慕われているあの中村君だった。

「・・・俺は小学校の三年まで、おねしょが直りませんでした。そのことは誰にも言ってません。
いじめられるし、嫌われると思ったから。でも、そんなのおかしいと思う。
人間なんだから必ず失敗はあると思う。
それなのに一回そういうことをしただけでいじめるっておかしいと思う。
だから、みんなもそういうことするべきでないと思う。」

言い終わった中村君はすごく格好良かった。彼女は泣いていた。

「うん、そうだな。じゃあ 、次六班。」

最悪の展開だ。中村君が言うならクラスのほとんどはもう彼女をいじめないだろう。
でも、すべてじゃない。いじめはなくならないのだ。きっと、中村君を好きな女子がいじめだすだろう。
しかし、僕の行動ですべては変わる。やろう。やってみよう。彼女のために。

「僕は中村君と違ってかなり最近の話です。
僕は急にお腹が痛くなりました。でも、トイレに行ったら何言われるか怖くてなかなか行けませんでした。
だけど、中村君の話を聞いて勇気が出ました。先生、すみませんがトイレに行ってもいいですか?」

先生は反応できないようだった。

「トイレに行ってもいいですか?」

もう一度尋ねると、先生ははっとしたように「いいぞ、行ってこい。」と言った。
クラスからはざわめきが聞こえてきた。



次の日から、僕はいじめられた。彼女の代わりに。別のターゲットが出ないといじめは終わらない。
だけど、彼女は気づかないだろう。僕が彼女のためにしたことを。

けど、一つだけよかったことがある。
それは漏らさずにすんだことだ。


『完』


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