深山's リクエスト作品

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「初恋」


 久しぶりに開いたアルバムはかび臭いニオイがした。明日は同窓会だ。何となく懐かしくなった俺はとりあえず段ボール箱に入れっぱなしのアルバムを開いてみた。開いて真っ先に目がいくのはやっぱり好きな娘だ。けど、いくら熱心に見たって気持ちは伝わらないのはもう分かっているから友達の顔に目を移す。けど、頭ではや
っぱり考えてしまう。仕方がないから、アルバムをほっぽり出して寝た。
 次の日、久しぶりにあったみんなはすごく懐かしかった。すごく変わってる奴も全然変わってない奴もいて、なんだかすごく新鮮だった。
「おい、久しぶりやな」
えっ、誰だ。こんな顔の奴いたか?
「俺だよ、セキだよ」
 俺は声が出なかった。セキはかなり太っていたはずだ。しかし、今、目の前にいる奴はがっちりはしていても太ってはいない。
「びっくりしたか? 実は大学でラグビー始めたんや。それより、みんなあっちにおるからいこや」
 とりあえず、俺はそのセキらしき人について行った。そこには懐かしい顔ぶれが勢揃いしていた。
 久しぶりに会ったわりには意外とそれほどみんな変わっていなかった。話を始めると止めどなく話題は出てくる。今何してるとか、就職とか今までの時間を埋めるように話しまくった。
 そのうち、どうしても恋愛の話になる。ふと、あの娘のことが頭をよぎる。だめだ、だめだ。もう終わったんだ、あの恋は。あの娘が誰かと付き合いだしたって話を聞いて、すっきりきっぱり諦めたんだ。
「俺、聞いたんやけどあいつら離婚したんやって。」
「あいつらって誰やねん?」
 そこで出てきた名前はあの娘のものだった。
「なんか、中学からずっと付き合ってそのまま結婚したんやけど、相手が浮気して別れたらしい」
「へぇ、そうなん」
 そう冷静を装った俺だったが、声は微かに震えていた。まだ、諦め切れていなかった。だって、初恋だったから。
 あいつらと別れて俺は彼女を捜した。何となく、ただ話したかった。
 彼女を見つけると俺は話しかけようかと思った。けど、考えてみれば学生の時も全然話したことなかったし、話すきっかけもなかった。
 そうしてウロウロしているうちに先に彼女が話しかけてきた。
 彼女は全然変わっていなかった。だけど、どこか変わってた。
 俺はずっともごもご喋って、全然はっきり喋れなかった。緊張して、手汗をかいたりした。彼女の方がはっきりしていた。何かが吹っ切れたような感じだった。
「実は私、離婚したんだ」
 彼女ははっきりと宣言した。これだ。これが彼女の変化だったんだ。俺は何か胸の中に熱い闘志がわいてくるのを感じた。俺だって変わったんだ。はっきりと今こそ気持ちを……

 気がつくと、そこはベッドの中だった。俺は横にあったアルバムをもう一度開いた。きっと、変わってる。みんなも俺も。だったら、可能性はゼロじゃない。そう思って、窓の外を見た。今日は晴天だ。


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