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異類婚姻譚集
「ツルの恩返し」

 昔々、あるところに与作という男がいました。ある日、与作は罠に掛かっている一匹の鶴を見つけました。
「おお、かわいそうに。今すぐ逃がしてやろう」
 与作は鶴を逃がしてやりました。

 その日の夜。ほとほとと戸を叩く音がします。
「こんな時間に誰だろう?」
 そう思って、戸を開けるとそこには今まで見たこともないぐらい美しい娘が立っていました。
「雪で道に迷ってしまいました。どうか一晩泊めていただけないでしょうか」
 与作はもちろん娘を泊めてやりました。そしてその晩、二人は夫婦になりました。
 娘はとても働き者で器量もよく、素晴らしい奥さんととなりました。しかし、与作には一つだけ気になっていることがありました。それは眠る時に娘が決して姿を見せないようにすることでした。そのせいか、二人は行為が済むといつも別室で眠りました。初めは与作もそういう人もいるのだろうと思っていましたが、段々と気になるようになっていきました。
 その日も娘は眠る前に「決して覗かないでくださいね」と強く与作に言いました。けど、与作は一度でいいから行為の後の余韻を味わったり、寝物語というものをしたいと思いました。そのことを娘に言いましたが、娘は決して頷こうとはしません。仕方なく与作は分かったと一度は言いましたが、娘が寝静まってから、ゆっくりと娘の寝室のふすまを開けました。
 与作は娘に気付かれないように忍び足で娘に近づきました。娘はどうやら深く寝入っているようでした。与作はこれ幸いとゆっくりと布団を娘から引きはがしました。
 しかし、その瞬間与作は思わず悲鳴を上げてしまいました。
「見てしまいましたね」
 娘が与作の悲鳴に気付き、悲しそうに言いました。
「本当にお前は俺の奥さんなのか?」
 なんとそこにいたのは、あの美しい娘とは似ても似つかない年増のおばさんでした。
「そうです。スッピンを見られてはもうここにはいられません。さようなら」
 そういうと、女は飛ぶように去っていきました。 
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