深山's 小説「最後の願い事」

「最後の願い事」

「寒いなぁ」
 一人で呟くとより一層その寒さが身にしみる。いくら春が近いとはまだまだ夜になると冷える。
 これからどうしよう。僕は思う。勢いで出てきたのはいいけど、その先は全く考えていなかった。でも、あんな風に父さんや母さんの悪口を言う人のところには居たくなかった、絶対に。
 半年ほど前、僕は全てを失った。家も家族も何もかも。残ったのはこの身体と思い出と形見のお守りだけだった。
 半年前、父さんは僕を呼ぶと「このお守りは何でも願い事が叶うお守りなんだ」と言った。
「でも、願い事は三回までしか叶えられないんだ。父さんはこのお守りを二回使った。一回目は母さんにプロポーズするとき、二回目は一樹がちゃんと元気にうまれてくるようにってね」
 父さんはそう言いながら僕の頭をくしゃっと撫でる。
「二回ともすごく上手くいった。母さんとも結婚できたし、一樹もすごく元気に生まれてきた。だから、このお守りは父さんにとってとても大事なものなんだ」
 父さんはそう言うとお守りを僕に手渡した。
「これを一樹にやろう。あと一回だけ願い事が残っている。本当に困ったときに使うんだぞ」
 僕は「本当にいいの?」と言いながらもすごく喜んだ。早速、何の願い事をしようか計画を立てた。
 欲しかったゲームソフトが買えますようにとかどうだろう。ラジコンもいいなぁ。でも、願い事は一つしかないもんなぁ。
 欲しいものはいっぱいあった。あまりにありすぎて僕はどれが一番か分からなくなってしまった。だから、僕は明日考えようって眠りに就いた。母さんの子守歌を聴きながら。
 
 次の日、起きてみると誰もいなかった。買い物にでも行ってるのかなと思って僕はテレビを見ていた。
 けど、父さんも母さんも帰ってはこなかった。二人は自殺したらしい。僕を残して。原因は借金らしいけど、そんなことはどうでもよかった。僕は叔母さん夫婦に引き取られることになった。
 叔母さん夫婦はあまり僕をかわいがってはくれなかった。どうやら両親と仲が悪かったらしい。初めはまだマシだったが、日に日に両親への悪口が増えていった。
ある日、とうとう僕は我慢できずに家を飛び出した。叔母さんが母さんを子供をおいて死ぬなんて最低の女だと言ったからだ。持ち物はお守りだけだった。
 
 夜の公園はなんだか静かで一人でいるには寂しすぎた。父さんと母さんに会いたいな。そう思った。おもちゃとか何もいらないから、ただただ家族と一緒にいたかった。今頃になって、一番欲しかった何なのか分かった。亡くしてから分かった。
 僕はお守りにお願いしてみた。母さんと父さんに会えるように。一緒に暮らせるように。ずっと三人で居られるように。
 次の日、少年の死体が発見された。その死に顔はすごく穏やかでまるで眠っているかのようだった、子守歌を聴きながら。
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