便意について本気出して考えてみた1(著:深山)



厳しい。
非常に厳しい。

僕のお腹は早くも悲鳴を上げつつある。
しかし、ここで素直にトイレに駆け込むわけにはいかない。
なんたって僕は成績優秀、容姿端麗、冷静沈着でみんなからも一目置かれている存在だ。
こんな僕がトイレでう○こしたなんてことになったら、僕が今まで築き上げてきたイメージは崩れ去ってしまうだろう。
ここは、誰にも気付かれずトイレに行ける機会を待つべきだ。

今日の時間割には午前中にそれほどお腹に厳しい授業はない。
この調子なら、昼休みまで保つだろう。
それまでは我慢するしかない。
そう、頭の中で計算すると僕は来たるべき戦いを待つ。


こうして僕と便意の戦いは始まる。


第1ラウンド

1時間目は国語という至って楽な授業である。
これからの戦いはどんどん厳しさを増す。
だから、この時間はおとなしくして体力を温存すべきだ。
そう思い、僕はお腹にとって一番楽な姿勢を取る。

授業が始まりしばらくすると、お腹の調子がひどくなってきた。
いわゆる第一波だ。

「じゃあ、この段落を前田君から読んでくれる。」

このタイミングでまわってくるとかなりきつい。
椅子から立ち上がらなければならない朗読はある意味この時間最大のピンチである。
下手をすれば立ち上がった瞬間におならという最悪のパターンに成りかねない。
しかし前田君は、僕のとなりの列だ。
これなら、うまくいけば逃れられるかもしれない。

朗読は淡々と進んでいく。
このままいけば、僕の前で終わる計算だ。
「はい、じゃあ次。」
しかし、誰も朗読しない。

「どうしたの、春子ちゃん。分からないの。」
しまった。

春子ちゃんがいた。
春子ちゃんはどう考えても言語レベルが他の人より二段階ぐらい低い。
優しい平林先生なら春子ちゃんをとばしてしまう。
「仕方ないわね、じゃあ次。」

計算が崩れた。
と同時に第一波は更に激しさを増す。
もう考えることさえ辛くなった僕は祈るしかなかった。

しかし、願いは虚しく僕にまわってこようとしていた。

「じゃあ、つ…」
キーンコーンカーンコーン。

そのチャイムの音は僕には天使の歌声に聞こえた。
「じゃあ、残りは次にしましょう。」
何とか当たることは逃れたが、その無駄な緊張感のせいでお腹の状態は見事に悪化していたのである。


『激動の2話へ』


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